『技術屋ではありますが、我々もまた帝國軍人であります』
 ■運用結果:後方技術陣の領分〜誇りは胸に、技術は腕に、そして未来はこの先に。

●整備難度の高騰と大規模生産施設提言
 ――無人化する、操縦する人間がいないという事には
副次的な側面が幾つか発生します。
 まず、ペイロードに余裕が出来ます。
 パイロット自身の容積はもとより、バイタル・生命維持に関連する機器(酸素供給や体温維持等)が不必要になるからです。
 そして、操縦機器の損耗が激しくなります。
 人間と言うものは無意識に加減を行う様に出来ており、急制動に見えたとしても破損しないよう最低限の余裕を
持っているからです。
 
 まず、ここでは整備的な状況の確認から行います。
 レギオンシステムは無人機という特性上、パイロット側からの体感による動作チェックを要点にした整備性が不可能である点があり、加えて、旧式機にRTRクラスの対応を求めるには流石に無理がありました。
 よって間接部、特にアクチュエーター回りは疲労が大きくなっている事を明示します。
 結果として、アクチュエータ等(そもそも関連部品の年式が違いすぎる)を全面改装を行いましたが、それはそれで物資を用いる事となり、整備の難度化が起こった上に無理な改装がたたって、パーツ寿命そのものは先年規定値より短くなっております。

 また、上記にも挙げた様に操縦機器の異常な損耗速度の理由に付いては、いわゆるパイロットの勘的な操縦感覚が存在しないためです。
 要するに、あらゆる機動(それこそ手足の上げ下げから航空戦術マニューバまで)が、事実上全て手加減無しの急制動、
フルスロットル&急ブレーキになっているからです。
 これらによってジェネレータ回り及び配電系統にも整備配慮しなければなりません。
 さらに、セキュリティの重要性から構築されたアポトーシス・システムですが、根本的にインストールの繰り返しによるタイムロスのみならず、記憶媒体回りに過大な付加を掛けている事も挙げられるでしょう。

 恐縮ではありますが今後の運用に付いて提言します。
 メンテスタッフから戦術・戦略面についての提言は重々失礼と承知していますが、何卒整備責任者の立場から鑑みて強く上申致します。

 まず、整備難易度の極度の上昇も伴い実験部隊の整備環境に関しては飛躍的向上を賜り、感謝にたえません。
 既に整備工場としての運用から、生産【巨大工場】として今後の改良運用も可能ではないかと想起しています。

 そこで、整備班からの要望としては、【大規模生産の後、
I=Dの運用可能実機数を多くして、運用直後から整備対応までの時間間隔を開けて順次対応を行う方法】を検討して頂きたく思います。
 なぜならば、無事で帰ってくる事を余り想定していない『捨て駒としての使い捨て兵器』という運用思想のため、従来とまったく異なる損耗率を叩き出す事が容易に想定されるからで――。



 ――宰相府開発工場・整備班班長チバ曹長の運用提言書。
 特に今後の【大規模生産・工場設備】に言及している点が興味深い。
 書き掛け(と同時に、現場の人間なので文章慣れしていない)のため草稿止まりであったが、机上の書類が視察中の
秘書官長の目に留まり、帝國軍上層部で深く考察される事となった。


 ●偵察・観測技術に関する解説
   無人化によるペイロードの増加に伴い、今後、偵察機器の増設と言う形で検討されている。
  これは、生命維持に伴う補給が不要となるため、より遠方・高速で運用(特に耐Gを考える必要が無い)する事が可能になるからであった。

   とはいえ、1機当たりに搭載出来る偵察機器という意味合いでは、戦艦クラスの偵察機器まではペイロード的に不可能である。
  そこで、遠方・高速での偵察運用と言う側面と共に、複数機体による開口合成を行い、情報統合を以って精度の向上を努める事とした。
   開口合成とは、複数の受信機を利用して、1つの大きな受信機として、高精度情報を取得するための技術である。

   これは、位置を精密に決定する技術、ドップラー効果による観測周波数のシフトを補償する技術など、多くの技術的課題が解消されたため、
  スペースVLBI(SVLBI)大規模天文観測にも応用される確立された技術である。
   つまり、同一のシステムであるレギオンに統括・連動・中継させる事により、理論上、数百・数千の観測機器を同期運用した巨大なアンテナとし、
  数万kmもの超長距離を測定する事が可能であった。

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