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『我は盾、我は瞳、我は翼、我らは護国の剣なり!』
■実証実験:前線実務者の戦術〜Legionとは、古代ローマにおける軍勢の総称である〜
●老将は、かく語りき。
――戦争は嫌いかね、お若いの。そっと、グラスの中の紫を映して老将軍は少年の様に瞳を輝かせた。 CIC:戦闘指揮所(Combat Direction Center)のディスプレイによる淡い灯りを頼りに、こちらの顔色越しに想いを伺って いる様は年輪相応の英知を感じさせる。 ――ただ破壊するだけのモノは嫌いです。 帝國軍人として恥じ入る事の無い答えと信じて、毅然と返す言葉に。 優秀な生徒を見る教師の様な、満面の笑みを返される。 レーダーソナーのPPIスコープ(Plan Position Indicator scope)表示器内に回転する走査線が、さながら文字盤の如く 時を進める。 漏れ聴こえる発令通信音声から自己を抑制する。 だがね、お若いの。 ファルス信仰とまでは言わんが……、おっと、逐一意味を調べる必要は無いぞ? 人と言うのは度し難い物でな。強い者や 武器に憧れる側面がある。 格闘技の選手に声援を送った事は無いかね? 武器や【機械兵】の資料にあれこれ想いを興した事は? ……わしはな、親父の形見のプギオ(短剣)が自慢でな。雄牛が掘り込まれておる。 若い頃には良く眺めておった。こう、弄んでるうちに鞘が外れて指を切った事もある。 妻に古いカッシス(戦兜)をガラクタ呼ばわりされた時には――おっと、話が逸れた。つまりはな、ただ破壊するだけのモノを、使いたくて使いたくて仕方の無い連中もいるという事なのだよ。 我々、帝國軍人はそのような――! わかっているさ、お若いの。樫の樹の杖の如き指と腕が、柔らかく声を制する。 だからさ、見てみるとしようかの―― 「シリウス、ロス128、月を確認。天球概念より全天、 三点観測から宙間座標誤差修正、各部問題無し。こちら グラディウス1。3rd−ATへのテストに移行を確認する」 「ラーミナ(刃)1了解。HQ:司令部(HeadQuarters)より 入電。グラディウス(小剣)・スパタ(長剣)・プギオ、各小隊に通達。3rd−ATテスト発動。繰り返す。3rd−ATテスト発動」 「プギオ1了解」「グラディウス1了解」「スパタ1了解。作戦領域到達、5分前」 「ラーミナ1了解。ランケア(槍)・アルムム(防具)両中隊のコンタクトを確認。CombatOpen。交戦規定に基づき各小隊指揮官に現場委任する」 「こちらスパタ1。第一防衛ライン到達まで180秒、仮想敵・前衛集団と接触します。攻撃開始!」 「プギオ1、攻撃開始」「グラディウス1、了解。攻撃開始」 /*/
ほぅ、散兵を統制できるか。まだ、難しいところですね。宙間機動では方陣を組む必要性が無いですから。有人機と違って、ただ円盤状に【並ぶ】I=Dが 適当に撃っているだけです。地上ならばファランクスで圧迫を掛けるやり方もあるのですが。 ファランクスはずっと前の時代だね。わしらの頃まで下ると専ら騎兵さ。まぁ、それでも、等間隔を保って一律運動できるだけでも大したものじゃよ。しかし、そろそろ―― ――ですね。脱落する機体が出始めました。回避率に難があるようです。やはり機動が規則的すぎますね。中央が押され始めました。第二防衛ラインまで抜かれるのも時間の問題です。 そうかね? わしにはレンズ状、つまり、3次元的な鶴翼陣にも見えるがの。 えっ? /*/
「仮想敵前衛・火力中隊から集中砲火、ミサイル多数イエローゾーンを突破。各員、迎撃弾幕展開。防御体制を取れ」 「こちらプギオ1、損害報告5番と7番が脱落」「スパタ1、ダメレポ(Damage Report)3番破損」「グラディウス1、損害報告4・5・6番が沈黙しました」 「こちらラーミナ1。中隊各員、即時第三防衛ラインまで後退せよ。繰り返す、即時第三防衛ラインまで後退せよ」 「スパタ1了解」「プギオ1了解」「グラディウス1了解。アルムム中隊の連携を確認」 「ラーミナ1、ランケア中隊の連携を確認。フォーメーション・ウィング!」 「アルムム・ランケア両中隊突出しました。ピルム(投槍)スクトム(円楯)両小隊、仮想敵後方まで推定3分」 「包囲完了。ハスタ(長槍)小隊、仮想敵本営に到達」 「カッシス(戦兜)小隊、仮想敵輸送部隊を完全撃破。これにより仮想敵兵站が瓦解しました」 「ロリカ(胴鎧)クリス(手槍)両小隊の合流を確認。包囲完了。以後掃討戦に移行します」 /*/
ほっほぅ! 見事な包囲殲滅だ!真逆、機械人形で立体的な『ザマ』を再現するとはな。我が麗しの祖国における遥かな昔、伝説の戦いだよ、恐れ入った。 ――さて、軍人は人であるべきか、そうでないべきかだったな。お若いの。 戦だけならば人であることを無くした方が容易い。されど、軍人は人であるべきだな。 人は大切な何かを守る為に戦う。そして軍人は戦う事の出来ない人の為の人だ。 大切なものを失う胸の痛み。我々は幾度と無くこれを体験してきたし、おそらくはこれからも経験するだろう。 されど痛いからと言って、それは失ってしまって良い物なのかね? そうだ、忘れてしまっては亡くなって来た者の意味を無くすのだよ。我々は忘れてはいけない。何事も思慮こそが肝要だとな。 わしらの時代は、振るう刃に涙が乗った。キミ達の時代にはボタンを押すその指に想いが乗る事になるだろう。 わしはキミらを信じているし、大丈夫だろうと思っている。 その事を、決して忘れてはいけないよ――
●戦闘報告。 3rd−AT(第3次フェイズ、模擬戦闘訓練)
■無人機動誘導兵装【レギオンシステム(Legion system)】■○仕様呼称 独自編成1個大隊を用いる。 1個小隊を仮に8機とし、3の倍数で部隊構成を行う。 オペレータ1〜数名により、1個小隊を管轄する。 名称は下記の通りである。 (※なお、実験部隊のため企画段階で定数割れのため、現状においては軍団長と大隊機長は同一である) + トリブヌス:幕僚部(tribunus) 1個大隊(3個中隊)プリミピルス:大隊機長(primipilus) 1個中隊(3個小隊)ケントリオン:中隊機長(centurion) 1個小隊 デクリオン :小隊機長(decurion) ◎レギオン実験大隊 :フュルスティン少佐(レガトゥス (大隊規模のためプリミピルスより名称のみ格上げ)) ○ラーミナ(刃) 中隊 :シャロット大尉(ケントリオン) ・グラディウス(小剣)小隊:アウロラ少尉(デクリオン) ・スパタ(長剣)小隊 :リーリヤ少尉(デクリオン) ・プギオ(短剣)小隊 :ウィルマ少尉(デクリオン) ○ランケア(槍) 中隊 :トゥルーデ大尉(ケントリオン) ・ピルム(投槍)小隊 ・ハスタ(長槍)小隊 ・クリス(手槍)小隊 ○アルムム(防具)中隊 :フラウ大尉(ケントリオン) ・ロリカ(胴鎧)小隊 ・スクトム(円楯)小隊 ・カッシス(戦兜)小隊 ○戦闘推移 単純な機動以外の行動や独自判断が不可能な実験大隊各機は、射撃面効率の高い凸レンズ状に展開し圧迫を掛けるも、戦闘初期段階で仮想敵の応射砲撃により部隊の15%が無力化。 中央突破を不可能と見た実験大隊幕僚部は、逆に戦列中央に位置するラーミナ中隊を後退させた。 仮想敵大隊は実験大隊戦列中央を大きく押し込んだが、このために仮想敵大隊は、湾曲した実験大隊戦列の辺端部 (右陣:ランケア中隊。左陣:アルムム中隊)が漏斗状に変形し、包み込まれるような形になっていた。 中央を突破すれば仮想敵大隊の勝利は確実だったが、そうなる前に、実験大隊・辺端部両翼は仮想敵大隊の後方へ回り込み、中央戦列の辺端両翼も仮想敵大隊の側面上下方へ機動した。 球状に包囲された仮想敵大隊はパニックに陥り、前衛が壊乱。全体的な統制が失われた。 左上陣のアルムム中隊カッシス小隊が、仮想敵大隊の後方に存在した輸送部隊の完全撃破により、実験大隊に勝利 判定が下った。 ○戦術レポート 仕様要求における、遠隔操作性に関しては低度ジャミング影響下にあっても過不足なく稼動した。実戦レベルにおいて 運用蓄積を待たれる。 オペレータを複数の部署に分散配置した場合の運用に付いてはメリット・デメリット両側面から以後の検討としたい。 柔軟性・攻撃防御性能に関しては企画段階からの懸念通り、想定内の低さと言えるが、一律機動が完全機能する分、 速やかな陣形構築と他部隊との連携が可能である事を注視する。 特に、理論上では、数千のI=Dが同時に同一目標の『同一箇所に火線集中』を行い、無制限の砲火力を注力する事も可能である。これは参謀部には『高能力目標に対する高火力戦の運用』として是非とも注視して頂きたい。 また、部隊陣形(フォーメーション)の意思統一と対応速度・対応精度には目に見張る物がある。現状、下記6種 戦術レベルで構築済ではあるが、今後の戦術AIの成熟と3次元戦闘下運用に伴い、部隊陣形について一層の検討をお願いしたい。 ・トレイル (随行)縦一列に並べた基本的な形。通常移動に用いる。 ・ウェッジ (魚鱗)『△』の形を取る陣形。宙間戦闘では凸レンズ状になる。 攻勢を掛けるため、接敵予想時の移動に用いる。消耗戦に強い。 ・ウィング (鶴翼)『V』の形を取る陣形。宙間戦闘では凹レンズ状になる。 両翼(両端)を閉じて包囲殲滅を図る防御重視の形、迎撃時に用いる。 ・ギムレット(紡錘)『↑』の形を取る陣形。宙間戦闘では円錐状になる。 攻性が極めて高く、正面突破時に用いるが側面に攻撃を受けると弱い。 ・サークル (円陣)『○』の形を取る陣形。宙間戦闘では球体になる。 全周囲に対する警戒・防御を行う。中央に護衛対象を置き、徹底防御に用いる。 ・スクウェア(方陣)『◇』の形を取る陣形。宙間戦闘では立方体になる。 全周囲に対する警戒・攻撃を行う。複数連携によって火力網拠点防御に用いる。 技術的側面、特にセキュリティ関連においては―― (〜以後、軍機のため中略) 以上を持って本レポートを終了する。 レギオン実験大隊所属:フュルスティン少佐(プリミピルス)
●コラム:用語の語源Legionとは、古代ローマにおける基本的な軍の編成単位のことでもある。古代帝政ローマ時代では、1つの軍団(Legion)は、法によって承認されたインペリウム:命令権(Imperium)が与えられた、レガトゥス:軍団長 (legatus)によって率いられたという。 1個軍団には、プリミピルス:大隊長(primipilus)が率いる大隊が10個大隊、 1個大隊には、ケントリオン:百隊長(centurion)が率いる小隊が6個小隊、 1個小隊には、デクリオン:十隊長(decurion)が率いる兵士が8人の10個分隊で構成されたと言われる。 (※つまり、1個軍団≒10個大隊≒60個小隊≒600個分隊≒4800人であるが、実際は定員割れを起こしていることが多かったらしい) なお、インペリウム:命令権(Imperium)の保持者という意味を持つ、インペラトール:平時における『最高命令権者』戦時における『最高司令官』 (Imperator)という言葉がある。 これは、インペリアル:帝國(Imperial)と、エンペラー:皇帝(Emperor)の語源になったと言われる。 |
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